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大阪地方裁判所 昭和63年(行ウ)42号 判決 1992年1月22日

原告

株式会社森精機製作所

右代表者代表取締役

森幸男

右訴訟代理人弁護士

浅岡建三

山﨑雅視

被告

奈良税務署長

水島宗祐

右指定代理人

井越登茂子

主文

一  被告が、原告の昭和五八年四月一日から同五九年三月三一日までの事業年度の法人税につき、昭和六〇年六月二九日付けでした、更正のうち所得金額金四〇億六九一九万七三三九円を超える部分、及び重加算税の賦課決定のうち税額金二一四万二〇〇〇円を超える部分を取消す。

二  被告が、原告の昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度の法人税につき、昭和六〇年六月二九日付けでした、更正のうち所得金額金二八億一七一一万一八七六円を超える部分の取消を求める訴えを却下する。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の、その一を被告の各負担とする。

事実及び理由

第一請求

一1  主位的請求

被告が、原告の昭和五六年四月一日から同五七年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五七年三月期」という。)の法人税につき、昭和六〇年六月二九日付けでした、更正のうち所得金額金一三九億八七〇七万七八八八円を超える部分、及び重加算税の賦課決定を取消す。

2  予備的請求

被告が、原告の昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五八年三月期」という。)の法人税につき、昭和六〇年六月二九日付けでした、更正のうち所得金額金二八億一七一一万一八七六円を超える部分を取消す。

二被告が、原告の昭和五八年四月一日から同五九年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五九年度三月期」という。)の法人税につき、昭和六〇年六月二九日付けでした、更正のうち所得金額金四〇億五二一八万二六五八円を超える部分及び重加算税の賦課決定を取消す。

第二事案の概要

一課税の経緯等(争いがない。)

1  原告は、昭和五七年三月期ないし同五九年三月期(以下、右三事業年度を併せて「係争事業年度」ともいう。)の法人税につき、別表1の確定申告欄記載のとおり確定申告をした。

2  被告は、原告の係争事業年度の法人税につき、昭和六〇年六月二九日付けをもって、同表更正欄記載のとおり、その所得金額及びこれに対する税額を更正する旨の処分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(以下「本件原処分」という。)を行ない、右処分は、同年七月一日に原告に通知された。

3  本件処分については、それぞれ審査請求がされた結果、昭和六三年六月三日付けをもって、同表裁決欄記載の金額を超える部分については、国税不服審判所長の裁決によって取り消された(以下、右取消後の更正をそれぞれ「昭和五七年三月期更正」、「昭和五八年三月期更正」、「昭和五九年三月期更正」といい、併せて「本件各更正」という。)。

4  原告は、昭和六三年八月二四日、請求欄記載の限度で、昭和五七年三月期更正及び重加算税の賦課決定並びに昭和五九年三月期更正及び重加算税の賦課決定の各取消訴訟を提起し、次いで、平成三年九月二〇日、請求欄記載の限度で、昭和五八年三月期更正の取消訴訟を提起した。

二昭和五七年三月期更正及び昭和五九年三月期更正に係る所得金額の算出の根拠は別表2のとおりであるが、その認定については、以下の点を除いて当事者間に争いがない。

1  昭和五七年三月期更正

原告は、昭和五七年三月二二日から二五日までの間にアメリカ合衆国ロスアンゼルスにおいて開催されたアメリカ合衆国機械工業会主催の見本市であるウエスティックショウ(以下「82ウエスティックショウ」という。)の協賛金として、取引先である株式会社山善に対して支払うべき四六七九万六四〇〇円(以下「本件協賛金」という。)を、昭和五七年三月期の販売促進費(未払金)として右事業年度の損金の額に算入したのに対し、被告は、別表2の3欄記載のように、このうち三〇七九万六四〇〇円は、昭和五八年三月期の販売促進費に計上すべきであるとして、昭和五七年三月期の損金の額に算入しなかった点

2  昭和五九年三月期更正

原告は、昭和五九年一月九日に、取引先である株式会社マルカキカイに対して支払った四三五二万〇六〇四円(以下「本件リベート」という。)を、昭和五九年三月期の販売促進費(リベート)として右事業年度の損金の額に算入したのに対し、被告は別表2の5欄記載のように、本件リベートは租税特別措置法六二条所定の交際費に該当するものとして、その損金算入を否認すべきものとした点

三本案前の主張

1  被告

昭和五八年三月期更正の取消請求訴訟は、出訴期間を経過した後である、平成三年九月二〇日に提起されたものであり不適法である。

2  原告

原告は、昭和五八年三月期更正の取消請求訴訟を、形式的には出訴期間経過後に提起したが、これが、出訴期間制限の趣旨に反するものではないことは、以下に述べるとおりである。

(一) 原告は、本件協賛金の全額を、昭和五七年三月期の販売促進費として右事業年度の損金の額に算入すべきであると主張して、出訴期間内である昭和六三年八月二四日に昭和五七年三月期更正の取消訴訟を提起した。

(二) 後記の本案に関する当事者の主張に鑑みれば、本件協賛金のうち三〇七九万六四〇〇円を昭和五七年三月期と昭和五八年三月期のいずれの販売促進費に計上すべきかは、昭和五七年三月期更正の取消訴訟における原告の主張の当否いかんによって決せられるという意味において、表裏一体の密接な関係にあり、その各取消訴訟の基礎は同一である。

(三) 原告は、本件協賛金金額が、82ウエスティックショウの協賛のためにされたとの主位的主張とともに、本件協賛金のうち三〇七九万六四〇〇円が、被告主張のように、株式会社山善の子会社であるYAMAZEN.U.S.A.INC(以下「山善U・S・A」という。)が主催して昭和五七年五月一四日から二四日にかけてに実施された、アメリカ合衆国のユーザー等取引先の日本招待旅行である82ジャパントリップ(以下「82ジャパントリップ」という。)の費用を一部負担する目的で支出されたものであるとした場合であっても、右支出は、昭和五七年三月期の販売促進費として右事業年度の損金の額に算入すべきであって、これは交際費には該当しないとの予備的主張をして、昭和五七年三月期更正の取消訴訟を追行してきており、82ジャパントリップの費用を一部負担することを目的とする支出が交際費に該当するとの被告の認定を争う趣旨は、適法に提起された昭和五七年三月期更正の取消訴訟において明確にされ、かつ争点とされてきた。

(四) 証拠調べの結果、予備的主張をする必要が生じることは、訴訟手続上特異なことではなく、本件の場合たまたま予備的主張が昭和五八年三月期更正に関わる可能性もあるため、その取消請求訴訟の提起が必要となったという事情がある。これらの事情に照らすならば、昭和五八年三月期更正の取消訴訟が形式的には出訴期間経過後に提起されたものであっても、出訴期間の制限の趣旨に反するものではない。

四本案の主張

1  被告

(一) 本件協賛金の支出について

(1) 本件協賛金はその額が、82ウエスティックショウの協賛金の名目で株式会社山善に対して支出がされているが、このうち三〇七九万六四〇〇円は、山善USAが主催して昭和五七年五月に実施したアメリカ合衆国のディーラー等取引先の日本招待旅行である82ジャパントリップの費用の負担金として、同会社に対して支払われたものを、82ウエスティックショウの協賛金の支払であるがごとく仮装して支出したものである。

(2) したがって、本件協賛金のうち三〇七九万六四〇〇円は、82ジャパントリップが実施された昭和五七年五月が属する事業年度(昭和五十八年三月期)の販売促進費である。

(3) なお、82ジャパントリップは、日本観光を主たる目的として行なわれた取引先の日本招待旅行であって、その費用負担のために支払われた右三〇七九万六四〇〇円は、昭和五八年三月期において、租税特別措置法六二条の適用により損金不算入の扱いを受ける交際費に該当する。

(4) よって、本件協賛金のうち三〇七九万六四〇〇円は、昭和五七年三月期の販売促進費に計上するべきではなく、右金額を、右事業年度の所得金額に加算すべきである。

しかも、原告は、租税特例措置法六二条の適用により損金不算入の扱いを受けることを回避するために、82ウエスティックショウの協賛金の支払であるかのごとく仮装して本件協賛金を支出したのであるから、国税通則法六八条に基づき重加算税の賦課も免れない。

(二) 本件リベートの支出について

(1) 本件リベートは、株式会社マルカキカイの子会社であるMARUKA MACHINERY CORPORATION OF AMERICA(以下「MMCA」という。)に対し、販売リベートの名目で送金支出がされているが、真実は、MMCAが主催して昭和五八年一〇月二三日から同月三〇日までの期間に実施されたアメリカ合衆国のディーラー等取引先の日本招待旅行である83MMツアーの費用を負担する目的で、同会社に対して支払われた金員を、MMCAに対する販売リベートの支払であるかのごとく仮装して支出したものである。

(2) 83MMツアーは、日本観光を主たる目的として行なわれた取引先の日本招待旅行であって、その費用負担のために支払われた本件リベートは、租税特別措置法六二条の適用により損金不算入の扱いを受ける交際費に該当する。

(3) よって、本件リベートは、租税特別措置法六二条の適用により損金不算入の扱いを受けるべきであり、しかも、原告は、これを回避するために、MMCAに対する販売リベートの支払であるかのごとく仮装して本件リベートの支出をしたのであるから、国税通則法六八条に基づき重加算税の賦課も免れない。

2  原告

(一) 更正期間の徒過

昭和五七年三月期更正は、国税通則法七〇条所定の更正期間を徒過してされたものであるから無効である。

(二) 本件協賛金について

(1) 一次的主張

原告は、昭和五七年二月ころ、主要な取引先である株式会社山善が、同年三月二二日から二五日にかけて開催された82ウエスティックショウに原告の製造する製品を出品するについて、これを援助し、原告製品の販売促進を図る目的をもって、本件協賛金四六七九万六四〇〇円を支払うことを約したのであって、本件協賛金の全額を、昭和五七年三月期の販売促進費として右事業年度の損金の額に算入すべきである。

なお、原告は株式会社山善から、82ジャパントリップの費用負担を求められたことはあるが、これを拒否している。

(2) 二次的主張

仮に、本件協賛金のうち三〇七九万六四〇〇円が、82ジャパントリップの費用の一部負担を目的とする支出に当たるとしても、これを昭和五七年三月期の販売促進費に計上すべきである。

すなわち、原告は、その主要な取引先である株式会社山善が、原告の伊賀工場等の工場見学を実施することを目的として、アメリカ合衆国のディーラー等取引先を日本に招待するのにつき、82ウエスティックショウの協賛金一六〇〇万円と併せて、82ジャパントリップの費用を一部負担する目的で三〇七九万六四〇〇円を支払うことを、昭和五七年二月ころに合意している。

右合意の時期に照らすならば、昭和五七年二月時点において、右合計四六七九万六四〇〇円の支払について支払合意が成立しており、昭和五七年三月期の終了の日までに、原告の支払債務は確定したものといえる。

そして、82ジャパントリップの右目的及び工場見学が販売促進に果す役割に照らし、82ジャパントリップの費用を一部負担することを目的とする支出が、租税特別措置法六二条の適用により損金不算入の扱いを受ける交際費に該当するとは認め難い。仮に、工場見学に付随して行なわれた日本観光に要した費用の負担部分が交際費に該当するとしても、工場見学に通常要する費用の負担部分までもが、交際費に該当すると解する理由はない。

したがって、本件協賛金のうち三〇七九万六四〇〇円の支払が82ジャパントリップの費用を一部負担することを目的とする支出に当たるとしても、その全額、少なくとも、工場見学旅行に通常要する費用の負担部分は、昭和五七年三月期の販売促進費として右事業年度の損金の額に算入すべきである。

(3) 三次的主張

仮に、82ジャパントリップの実施時期が昭和五七年五月であることから、82ジャパントリップの費用を一部負担することを目的とする原告の支払債務が、昭和五七年三月期の終了の日までに確定していないとすれば、その全額、少なくとも、工場見学旅行に通常要する費用の負担部分は、昭和五八年三月期の販売促進費として右事業年度の損金の額に算入すべきである。

(4) まとめ

よって、原告は、主位的に、昭和五七年三月期更正及びこれに伴う重加算税の賦課決定を、本件協賛金のうち三〇七九万六四〇〇円を昭和五七年三月期の販売促進費として右事業年度の損金の額に算入することを否定した限度において取消を求め、予備的に、昭和五八年三月期更正を、本件協賛金のうち三〇七九万六四〇〇円を昭和五八年三月期の販売促進費に計上しながら、これが交際費に該当するとして、右事業年度の損金の額に算入することを否定した限度において取消すことを求める。

(三) 本件リベートについて

(1) 主位的主張

原告は、主要な取引先である株式会社マルカキカイに対する販売リベートとして本件リベートを支払ったのであって、83MMツアーの費用の負担金として、これを支払ったものではない。したがって、本件リベートは、昭和五九年三月期の販売促進費として右事業年度の損金の額に算入すべきである。

なお、原告は株式会社マルカキカイから、83MMツアーの費用負担を求められたことはあるが、これを拒否している。

(2) 予備的主張

仮に、本件リベートが、83MMツアーの費用を一部負担することを目的とする支出に当たるとしても、昭和五九年三月期の販売促進費として損金の額に算入すべきである。すなわち、83MMツアーは、原告の主要な取引先である株式会社マルカキカイの子会社であるMMCAが、原告の伊賀工場等の工場見学を実施することを目的として、アメリカ合衆国のディーラー等取引先を日本に招待したものであって、83MMツアーの右目的及び工場見学が販売促進に果す役割に照らし、これが、租税特別措置法六二条の適用により損金不算入の扱いを受ける交際費に該当するとは認め難い。仮に、工場見学に付随して行なわれた日本観光に要した費用の負担部分が交際費に該当するとしても、工場見学に通常要する費用の負担部分までもが、交際費に該当すると解する理由はない。

したがって、本件リベートの支払が83MMツアーの費用を一部負担することを目的とするものであったとしても、その全額、少なくとも、工場見学旅行に通常要する費用の負担部分は、昭和五九年三月期の販売促進費として右事業年度の損金の額に算入すべきである。

3  更正期間徒過の主張に対する被告の反論

昭和五七年三月期更正が更正期間を徒過してされた旨の原告の主張は、時機に遅れた主張であり、却下を免れない。

仮にそうでないとしても、原告は、82ジャパントリップの費用の負担金の支出を82ウエスティックショウの協賛金の支払であるかのごとく仮装していたのであり、右行為は、国税通則法七〇条五項所定の「偽りその他不正の行為」に該当し、右行為によって、免れた国税についてする更正決定等は、法定申告期限から七年を経過する日まですることができる。したがって、被告がした昭和五七年三月期更正は、同条項所定の更正期間内にされたものである。

第三判断

一本件協賛金の支出目的

原告は、昭和五七年三月期の経理処理上、株式会社山善に対して支払うべき82ウエスティックショウの協賛金四六七九万六四〇〇円(一八万九〇〇〇ドル)を未払金に計上していたこと<書証番号略>、昭和五七年五月二八日付けをもって、株式会社山善から原告に対し、82ウエスティックショウの協賛金四六七九万六四〇〇円の請求がされ<書証番号略>、同年六月二二日、原告から株式会社山善に対し、右請求金額から振込手数料を控除した四六七九万五六〇〇円が銀行送金されたこと<書証番号略>が認められ、本件協賛金が、形式上は82ウエスティックショウの協賛金として支払われたことは明らかである。

しかし、証拠(<書証番号略>、証人大野圭一、同久保敏久及び後記各項掲記の証拠)に弁論の全趣旨を総合すると以下の1の(一)ないし(四)、2の(一)、(二)、3、4の各事実が認められ、これらの事実に鑑みると、右四六七九万六四〇〇円のうち三〇七九万六四〇〇円は、82ジャパントリップの費用を一部負担する目的で支払われたものであると認められることは、以下に説示するとおりである。

1  82ウエスティックショウの協賛金を巡る交渉経過等

(一) ウエスティックショウは、毎年一回、米国機械工業会が主催してロスアンゼルスにおいて開催される、米国西海岸最大の工作機械の展示会で、山善USAも、例年、取引関係のある製造メーカー数社の製品を出品している。

(二) ウエスティックショウに係る費用については、山善USAとともに、各製造メーカーが、製品の展示スペースに応じて、毎年ほぼ一定の金額を協賛金として負担をしており<書証番号略>、原告は、81ウエスティックショウの協賛金として二〇〇〇万円<書証番号略>を、83ウエスティックショウ協賛金として一三五四万七六五五円<書証番号略>を負担している。

(三) 82ウエスティックショウについては、昭和五七年三月二二日から二五日にかけて開催されることとなり、山善USAは、原告他六社の製品の出品を予定し、株式会社山善を通じて、各製造メーカーに対して、製品の出品と協賛金の負担を要請した。原告に対しては、昭和五六年一二月一六日付けで一六〇〇万円の協賛金の負担が要請され<書証番号略>、そのころ、原告もこれを了承した。

(四) 右のような交渉経過を経て、山善USAは、82ウエスティックショウの総経費の見積金額二八八一万円については、各製造メーカーとの話合いにより、原告の協賛金一六〇〇万円を含む各製造メーカーの負担金総額が二六二〇万円、株式会社山善の負担額が二六一万円となったとして、株式会社山善の社内稟議を求め、そのころ、関係各部の決済を得た<書証番号略>。

(五) 原告を除く他の製造メーカーは、株式会社山善において稟議に付されたとおりの金額を82ウエスティックショウの協賛金として支払った。

2  82ジャパントリップの費用負担を巡る交渉経過等

(一) 他方、株式会社山善と原告との間では、昭和五六年一二月ころから、山善USA主催の82ジャパントリップの費用負担に関する交渉が並行して進められていた。株式会社山善の交渉担当者であった大野圭一貿易部第一部長(以下「大野部長」という。)は、原告の交渉担当者である相良卓夫総務部長(以下「相良部長」という。)に対し、82ジャパントリップにつき三〇〇〇万円の費用負担を求めたが、相良部長は、ディーラーの招待旅行の経費負担は交際費に該当するとして課税対象となるおそれがあることを理由に、82ジャパントリップの費用として、右三〇〇〇万円を支払うことには難色を示したため、右両者間において協議を重ねた結果、昭和五七年二月ころ、株式会社山善は、82ジャパントリップの費用を82ウエスティックショウの協賛金に上乗せして請求をすることが合意された。

(二) 相良部長は、昭和五七年二月ころ、経理担当者に、82ウエスティックショウの協賛金として一八万九〇〇〇米ドルを負担することの承認を求める稟議書の作成を命じ、そのころ、原告の副社長の決済を得た<書証番号略>。右稟議書には、先に社内の了承を得ている82ウエスティックショウの協賛金を増額することの承認を求める趣旨の説明等は記載されていない。

3  原告の振替伝票の処理

原告の経理担当者は、昭和五七年四月に、昭和五七年三月期の決算に伴う振替伝票の作成を行ない、82ウエスティックショウの協賛金については、いったん、一六〇〇万円の負担を承認する趣旨の原告の社内稟議書に基づき、一六〇〇万円を未払金に計上する昭和五七年三月三一日付けの振替伝票を作成した<書証番号略>が、後日、右振替金伝票を訂正したうえ、二月一五日付けの前記稟議書に基づき、82ウエスティックショウの協賛金四六七九万六四〇〇円を未払金に計上する昭和五七年三月三一日付けの振替伝票を作成した<書証番号略>。

4  原告の支払金員の使途

原告が、昭和五七年五月二八日付けの株式会社山善からの請求に応じて、同年六月二二日、同株式会社に対して送金した金員は、全額、株式会社山善から山善USAに振替処理がされ、このうち二九七九万六四〇〇円は82ジャパントリップの費用に充当された<書証番号略>。

以上に認定したところによれば、原告が負担すべき82ウエスティックショウの協賛金の金額を一六〇〇万円とすることは、原告及び株式会社山善の各社内決裁を経て、その旨の合意が成立していたこと、原告が、82ウエスティックショウの協賛金名下に送金した四六七九万六四〇〇円は、82ウエスティックショウの総経費の見積金額(二八八一万円)をも上回る金額であること、82ウエスティックショウに出品した他の製造メーカー各社は、株式会社山善の請求に応じて、それぞれの製品の展示面積に相応した協賛金を支払っており、原告が当初合意した一六〇〇万円を上回る金額を負担することを必要とするような事情はなかったことが明らかであり、これらの事実に鑑みれば、右四六七九万六四〇〇円のうち一六〇〇万円を上回る部分については、82ウエスティックショウの協賛を目的として支出されたものとは認め難い。

そして、82ジャパントリップの費用負担に関する交渉の中で、株式会社山善から原告に対する、82ウエスティックショウの協賛金額の請求を当初の合意よりも増額することが合意されたこと、原告が82ウエスティックショウの協賛金名下に送金した四六七九万六四〇〇円のうち、二九七九万六四〇〇円は82ジャパントリップの費用に充当されたことなどの事実に弁論の全趣旨を総合すれば、四六七九万六四〇〇円のうち一六〇〇万円を超える部分三〇七九万六四〇〇円については、原告は、82ジャパントリップの費用に充当することを目的として、その支払をしたものと認められる。

この点について、原告は、本件協賛金の全額を82ウエスティックショウを協賛する目的で支払ったものであり、ただ、本件協賛金の支払を合意した昭和五七年二月ころには、未だ、82ウエスティックショウの総経費の額が不明であったため、81ウエスティックショウの実績をもとに、81ウエスティックショウの総経費額である一八万九〇〇〇米ドルを負担することになった旨の主張をし、右主張の裏付けとして、株式会社山善から受領したとする81ウエスティックショウの経費明細<書証番号略>を提出する。そして、証人大野及び同久保の各供述中にも右主張に副う部分がある。しかし、<書証番号略>に照らし、<書証番号略>の信憑性については疑問を差し挟まざるを得ないうえ、前記認定の各事実に加え、証人大野の証言によれば、株式会社山善の担当者として、82ジャパントリップの費用負担について、原告との間の交渉を行なっていた大野部長は、昭和五七年当時には<書証番号略>をみたことはなく、証人としての出廷前の原告関係者との打ち合せにおいて、初めてこれを見たというのであるから、原告の右主張を認め難いことは明らかというほかはない。

二82ジャパントリップの費用負担債務の確定時期

原告が82ジャパントリップの費用を一部負担する目的で支出した三〇七九万六四〇〇円の債務の確定時期について検討を進める。

法人税法による課税所得金額の計算上、当該事業年度の損金に算入される費用は、当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものであることを要する(法人税法二二条三項二号)。客観的に覚知しうる事実に基づいて課税をし、その公平を図るためには、企業の恣意の入りやすい費用の見越計上を防止する必要があり、その趣旨からして、債務が確定したといえるためには、①当該費用に係る債務が成立し、②その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生し、③その金額を合理的に算定し得るものであることが必要である。

これを本件についてみてみると、前記一の2に認定したように、昭和五七年二月には、原告と株式会社山善との間において、原告が82ウエスティックショウの協賛金一六〇〇万円と82ジャパントリップの費用の一部負担金とを併せて、一八万九〇〇〇米ドル支払うことが合意されたことは認められるが、それだけでは、82ジャパントリップの費用の一部負担を目的とする支払債務に関しては、右合意に係る金額を負担する旨の債務が成立したと認められるに過ぎない。右合意の趣旨や株式会社山善から原告に対する本件協賛金の請求時期に鑑みれば、原告は、82ジャパントリップが実施されたときに、右合意に係る給付をすべきことになるものと認められるから、82ジャパントリップが実施されるまでは、右合意に基づいて具体的な給付をすべき事実は発生していないものというべきである。したがって、82ジャパントリップの費用の負担金については、82ジャパントリップが実施された昭和五七年五月に、その債務が確定したものと認められ、その費用を、昭和五七年三月期の販売促進費として、同事業年度の損金の額に算入することは認められない。

三昭和五七年三月期更正及び重加算税賦課決定の適法性

1  昭和五七年三月期の所得認定の適否

以上に認定説示したところによれば、原告が昭和五七年三月期の販売促進費として同事業年度の損金の額に算入した本件協賛金のうち三〇七九万六四〇〇円は、同事業年度の販売促進費には当たらないものというべきであって、右金額を昭和五七年三月期の損金の額から減算した昭和五七年三月期更正の認定は、適正なものといえる。

2  重加算税の賦課決定の適否

そして、既に認定したところによれば、本件協賛金のうち三〇七九万六四〇〇円は、82ジャパントリップの費用を一部負担する目的で支出されたものであるにもかかわらず、原告は、その金額を82ウエスティックショウの協賛金として支払うことの承認を求める社内稟議書を作成し、かつ、82ウエスティックショウの協賛金(未払金)として計上する昭和五七年三月三一日付けの振替伝票を作成したこと、株式会社山善と協議のうえ、同会社から82ウエスティックショウの協賛金として四六七九万六四〇〇円の請求書を作成させて、82ウエスティックショウの協賛金名下に右四六七九万六四〇〇円を支払ったこと、その上で、本件協賛金の全額を昭和五七年三月期の販売促進費に計上して、昭和五七年三月期の納税申告をしたことが明らかである。原告の右行為は、本件協賛金のうち三〇七九万六四〇〇円につき、事実を隠ぺいし、又は仮装したものと認められ、右部分にかかる税額に対して課される過少申告加算税に代えて重加算税を課するべきである。したがって、昭和五七年三月期の法人税に係る重加算税の賦課決定は適法である。

3  更正期間徒過の有無

更正期間の徒過を指摘する原告の主張は、本件訴訟の終結段階において初めてされたものであるけれど、既に審理がされたところによって、その主張の当否を判断することが可能であって、その主張の当否を判断するために更に審理を尽くす必要は認められない。したがって、右主張を時機に遅れたものとして却下することなく、その当否を判断するのが相当である。

そこで検討をするのに、右2に指摘した事実によれば、原告は、82ジャパントリップの費用を一部負担する目的で支出した三〇七九万六四〇〇円を、82ウエスティックショウ協賛金であるかのように仮装して支出し、右仮装したところに従って、昭和五七年三月期の課税標準額を過少申告し、同事業年度の法人税を免れたものであるから、これを更正する昭和五七年三月期更正は、同事業年度の法人税の法定申告期限から七年を経過する日まで適法にすることができる(国税通則法七〇条五項)。したがって、昭和六〇年七月一日に原告に送達された昭和五七年三月期更正は、更正期間内においてされたものであって、これが更正期間を徒過したものであるとする原告の主張は、失当である。

4  以上によれば、昭和五七年三月期更正及び重加算税の賦課決定はいずれも適法であるから、その取消を求める原告の主位的請求は理由がない。

四昭和五八年三月期更正の取消請求訴訟の適否

原告は、予備的に昭和五八年三月期更正の取消を求めるけれど、右予備的請求に係る訴えは、出訴期間を経過した後である平成三年九月二〇日に提起されたものであることは、裁判所に顕著である。原告は、右訴えの提起を認めることは、出訴期間を制限した法の趣旨に反しない旨を主張するけれど、右主張が失当であることは、以下に説示するとおりである。

すなわち、出訴期間を徒過した後に追加的に提起された昭和五八年三月期更正の取消訴訟は、出訴期間の遵守に欠けるところがないものと認められるためには、昭和五七年三月期更正と昭和五八年三月期更正との間に存する関係から、前者の取消訴訟の提起時に、後者の取消訴訟も提起されたと認めるべきような特段の事情があることが必要である。これを本件についてみてみると、昭和五七年三月期更正と昭和五八年三月期更正は全く別個の処分であるだけでなく、原告は、本件協賛金の全額が82ウエスティックショウの協賛金であって、昭和五七年三月期の販売促進費に計上されるべきであると主張して昭和五七年三月期更正の取消訴訟を追行してきたが、証拠調べの結果に鑑み、本件協賛金のうち三〇七九万六四〇〇円が82ジャパントリップの費用を一部負担する目的で支出されたとしても、これは交際費には当たらないとの予備的主張を追加するのと併せて、予備的請求にかかる訴えを提起したことが明らかである。そして、<書証番号略>によれば、被告が、82ジャパントリップの費用を一部負担する目的でした支出は交際費の支出に当たるとして、昭和五八年三月期更正をしていることは、原告も容易に了解可能であったのであるから、被告の右認定判断を争って、出訴期間内に昭和五八年三月期更正の取消を求める訴えを提起することは可能であったといえる。それにもかかわらず、原告が、昭和五七年三月期更正の取消訴訟を提起した当初においては、その主位的主張に依拠して、昭和五七年三月期更正の取消のみを求めて、右の認定判断を争う趣旨の主張さえもしていなかった以上、その提起時に、昭和五八年三月期更正の取消訴訟も提起されたと認めるべきような特段の事情はあるとは、到底認め難い。

したがって、昭和五八年三月期更正の取消を求める訴えは、行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間を徒過した後に提起されたものであって不適法というほかない。

五本件リベートの支出目的

原告は、昭和五九年一月九日、同五八年六月一日から九月三〇日までの期間の販売促進リベートとして、四三五四万五八六四円(うち二万五二六〇円は支払手数料)を、MMCAに送金した<書証番号略>ことが認められるが、証拠(<書証番号略>、証人岡本忠雄、同久保及び後記各項掲記の証拠)に弁論の全趣旨を総合すると以下の各事実が認められ、これらの事実に鑑みると、右四三四五万五八六四円は、83MMツアーの費用を一部負担する目的で支払われたものと認められることは、以下に説示するとおりである。

1  マルカキカイ株式会社は、83MMツアーの実施を計画するに当たり、原告に費用の負担を求め、原告の予算枠との関連で参加人数についての協議を行ない、原告の意向を受けて、昭和五八年八月一〇日ころ、参加人数一〇〇名程度の規模で83MMツアーを実施する方針をMMCAに伝えた<書証番号略>。

2  83MMツアーは、このような協議を受けて、昭和五八年一〇月二三日から同月三〇日にかけて実施された<書証番号略>。

3  マルカキカイ株式会社は、83MMツアー終了後の昭和五八年一一月二四日に、83MMツアーの費用四六一四万七六六二円の請求書<書証番号略>を原告に持参したが、原告は、右請求書の受領を拒否した。

4  そこで、マルカキカイ株式会社海外第一部長佐藤幸作(以下「佐藤部長」という。)と原告の相良部長の間で、MMツアーの費用負担を巡って協議が重ねられ、原告がマルカキカイ株式会社に対し、四三五〇万円を支払うことについては合意に達したが、相良部長は、ディーラーの招待旅行の経費負担は交際費に該当するとして課税対象となるおそれがあることを理由に、83MMツアーの費用として、右四三五〇万円を支払うことには難色を示し、マルカキカイ株式会社ないしMMCAに対する販売促進リベートとしてこれを支払うことを希望した。佐藤部長は、原告が、右四三五〇万円を販売リベートとして支払うのは、税務対策上の会計処理であると認識していた。<書証番号略>

5  右協議を受け、相良部長は、販売促進リベートの金額が概ね四三五〇万円となるように販売促進リベートの対象期間及び算出方式を検討し、昭和五八年六月一日から九月三〇日までの期間中のマルカキカイ株式会社購入金額の三パーセントが、概ね右金額になることを確認のうえ、昭和五八年一二月、原告、マルカキカイ株式会社及びMMCAの三者合意の形で、昭和五八年六月一日から九月三〇日までの期間中に、原告から、マルカキカイ株式会社を通じて、MMCAに対し、一か月三億円を超えて出荷された場合には当該総出荷額の三パーセントを、マルカキカイ株式会社又はMMCAに対するリベートとして、マルカキカイ株式会社又はMMCAに支払う旨の、昭和五八年六月一六日付けの「販売促進リベートに関する覚書」<書証番号略>が作成された。

6  相良部長から、右覚書に従って計算した販売リベートの金額が四三五二万〇六〇四円となる旨の連絡を受けたマルカキカイ株式会社は、昭和五八年一〇月一五日付けの請求書をもって右金額をMMCAからこの金額を請求させることとし、その旨を原告に連絡し、この連絡通りの請求書が、原告に送付された<書証番号略>。

7  相良部長がリベート算定の基礎とした、マルカキカイ株式会社の昭和五八年六月一日から九月三〇日までの購入金額一四億五〇六八万六八〇四円には、同社の貿易部を通じてMMCAに出荷された分の他、ヨーロッパ、台湾等に輸出された分の購入金額も含まれていたが、右一四億五〇六八万六八〇四円の三パーセントに相当する四三五二万〇六〇四円の全額が、昭和五九年一月九日、MMCAに対して送金され<書証番号略>、83MMツアーの費用に充当された。

以上に認定したように、83MMツアーは、その計画段階から、原告による費用負担を前提にして、実施規模等について協議がされたうえで実施されたこと、本件リベートは、83MMツアーの費用負担を巡る交渉過程で、原告がマルカキカイ株式会社に対して四三五〇万円を支払うことを了解したことを前提に、販売リベートの金額が概ね四三五〇万円になるように、その対象期間や算出方式を決定し、原告も関与して、作成日付を遡らせて「販売促進リベートに関する覚書」や販売リベートの請求書を作成したうえで、その支出がされたこと、本件リベートの算出の基礎とされたマルカキカイ株式会社の購入金額には、同社の貿易部を通じてMMCA以外に出荷された分も含まれていたにもかかわらず、本件リベートは、全額、原告からMMCAに対して送金されたことに鑑みれば、本件リベートは、83MMツアーの費用を一部負担する目的で支出されたものであると認めざるを得ない。

この認定に反する趣旨の証人岡本の供述部分は、前記各証拠に照らして信用できない。

六83MMツアーの費用の交際費該当性

製造業者が、自社製品を購入してもらったことへの謝礼等の趣旨で、得意先を観光旅行に招待した場合には、そのために要する費用は交際費に該当し、当該事業年度の損金の額に算入することは認められないが、他方、自社製品の商品知識の普及等を目的として、得意先に工場の見学をさせる場合には、このような行為は、得意先に対する接待、供応というよりも、販売促進のために必要な行為というべきであるから、それに通常要する費用の額は、販売促進費として、損金の額に算入することが許されると解される。そこで、以下においては、83MMツアーが、そのいずれに該当するのかについて検討する。

被告は、83MMツアーの招待者が既に原告の製品を購入したユーザーとその夫人であることや、83MMツアーの旅行日程の大部分は観光で占められており、工場見学の日も観光に当てることが可能な旅行日程であることなどの事実に鑑みれば、83MMツアーは、原告の製品を購入したことに対する謝礼の趣旨の観光旅行であると主張する。証拠(<書証番号略>、証人岡本)に弁論の全趣旨を総合すると、83MMツアーは、アメリカ合衆国において原告の製品を購入したユーザー八〇名とその夫人一九名を招待して、昭和五八年一〇月二三日から三〇日までの八日間にわたって実施され、延べ三日間が観光に当てられているうえ、工場見学が予定された日に観光を行なうことも可能なように旅行日程は計画されているなど、被告の主張に副う事実が認められる。

しかし、証拠(全掲各証拠及び証人久保)によれば、以下の事実が認められ、これらの事実に照らすならば、83MMツアーが、原告の製品を購入したことに対する謝礼であり、もっぱら日本観光を目的とするものであるとの被告の主張を認めることはできない。

1  マルカキカイ株式会社及びMMCAは、工作機械の類の販売においては、ユーザーに二台目、三台目の機械を購入してもらうことが販売促進につながるうえ、原告の伊賀工場は、日本の工作機械業界ではトップクラスのFMS工場(無人化生産システム工場)であって、アメリカ合衆国における原告の知名度や製品に対する信頼度を高めるためには、このような原告の工場を見学させることは、有効な販売促進策であると判断して83MMツアーを計画した。

2  83MMツアーの旅行日程の八日間のうち2.5日が、原告の伊賀工場及び本社工場、並びに、原告製品の電子制御部分を製造しているFANUC東京工場及び富士工場又はYASNAC東京工場の見学に当てられていた。ちなみに、このよううな旅行日程は国税不服審判所において、航空運賃の負担金支出の交際費該当性が否定された山善ヨーロッパ主催のジャパントリップとほぼ同様である。

そして、工場見学日に計画された観光は、ユーザーに同行した夫人を対象とするものであり、ユーザーは、右各工場の見学を行なった。また、旅行日程のうち終日に観光に当てられた日は二日だけで、他は、移動日の午後や工場見学の後の時間を観光に当てたというようなものであった。

以上のように、83MMツアーの旅行日程は、工場見学の実態を備えたものであり、アメリカ合衆国のユーザー八〇名に、原告の伊賀工場等右各工場を見学させることは、原告製品についての商品知識を普及させ、原告の知名度、信頼度を向上させるなど、有効な販売促進策であるとの判断の下に83MMツアーが実施されたものと認められる。したがって、本件リベートのうち、アメリカ合衆国のユーザー八〇名を、右各工場の見学に招待するために通常要する費用の限度においては、これが交際費に当たるとは認め難く、これを損金の額に算入すべきである。

七損金の額に算入すべき金額

そこで、本件リベートのうち、損金の額に算入すべき金額について検討を進める。

1  航空運賃

<書証番号略>によれば、83MMツアーの参加者九九人分の航空運賃は、二八三一万三八五三円であったことが認められる。このうち、アメリカ合衆国のユーザー八〇名分の航空運賃である二二八七万九八八一円が、前記各工場の見学に招待するために通常要する費用として、昭和五九年三月期の損金の額に算入されるべき金額というべきである。

2  日本国内における83MMツアーの費用

(一) 食事代

<書証番号略>によれば、日本国内における食事代は、合計一〇五万七四八八円と認められるが、<書証番号略>によって認められる83MMツアーの旅行日程に照らすならば、一〇月二六日のホテルサンハトヤにおける朝食代及び同日の車中の食事代以外は、観光に付随した食事代であって、交際費に該当するものと認められる。

そして、<書証番号略>によれば、ユーザー及びその夫人各一名が東京から緊急帰国し、それ以後の83MMツアー参加者は、ユーザー七九名及び同行の夫人一八名の九七名となったことが認められるので、ホテルサンハトヤにおける朝食代及び同日の車中の食事代のうち、ユーザー七九名分の食事代に相当する三〇万二三一八円(371,200円×79/97°一円未満四捨五入。以下同じ。)が、ユーザーを前記各工場の見学に招待するために通常要する費用として、昭和五九年三月期の損金の額に算入されるべき金額というべきである。

(二) 国鉄券代

<書証番号略>によれば、前記各工場見学後の移動の交通機関の変更に伴い、取消料二万九七〇〇円が必要であったこと、ユーザー七九名分の熱海から新大阪までの運賃が一一二万九七〇〇円であったことが認められ、右合計一一五万九四〇〇円が、ユーザーを前記各工場の見学に招待するために通常要する費用として、昭和五九年三月期の損金の額に算入されるべき金額というべきである。

(三) 貸切バス料金

<書証番号略>によれば、日本国内における移動等に使用した貸切バスの料金は、合計二七八万七〇〇〇円と認められるが、83MMツアーには、ユーザーに同行した夫人も参加していたことや<書証番号略>によって認められる83MMツアーの旅行日程に照らすならば、次の貸切バスの料金は、同行の夫人の輸送や観光のために要したものであって、交際費に該当するものと認められる。

(1) 一〇月二三日の成田空港・ホテルセンチュリーハイアット間の貸切バス一台

(2) 一〇月二四日の都内観光用貸切バス三台

(3) 一〇月二五日の箱根観光用貸切バス一台

一〇月二五日のホテルサンハトヤ・ハトヤ間の夜間往復の貸切バス二台

(4) 一〇月二六日のホテルサンハトヤ・熱海駅間の貸切バス一台

一〇月二六日の大阪市内観光用貸切バス三台

(5) 一〇月二七日の薬師寺、奈良観光用貸切バス一台

(6) 一〇月二八日のあやめ池遊園観光用貸切バス一台

(7) 一〇月二九日の京都市内観光用貸切バス三台

(8) 一〇月三〇日のロイヤルホテル・伊丹空港間の貸切バス一台

以上の貸切バス料金を除いた貸切バス料金合計一一九万円が、ユーザーを前記各工場の見学に招待するために通常要する費用として、昭和五九年三月期の損金の額に算入されるべき金額というべきである。

(四) 手荷物搬送用トラック運賃

<書証番号略>によれば、日本国内における83MMツアー参加者の手荷物運送用トラックの料金は、合計二二万二〇〇〇円と認められるが、このうち、一〇月二三日の成田空港・ホテルセンチュリーハイアット間及び一〇月三〇日のロイヤルホテル・伊丹空港間の各トラック一台分の料金は、同行の夫人の手荷物搬送のために要したものであって、交際費に該当するものと認められる。したがって、これを控除した一七万九〇〇〇円が、ユーザーを前記各工場の見学に招待するために通常要する費用として、昭和五九年三月期の損金の額に算入されるべき金額というべきである。

(五) マルカキカイ株式会社同行者宿泊費用

<書証番号略>によれば、83MMツアーに同行したマルカキカイ株式会社社員の宿泊費用は、合計三〇万七一九五円と認められる。そして、<書証番号略>によって認められる83MMツアーの旅行日程に照らすと、83MMツアーの宿泊数七泊のうち五泊が、前記各工場見学を実施するために必要な宿泊数と認められる。したがって、右三〇万七一九五円のうち五泊分に相当するものと認められる二一万九四二五円(307,195円×5/7)が、ユーザーを前記各工場の見学に招待するために通常要する費用として、昭和五九年三月期の損金の額に算入されるべき金額というべきである。

(六) ポーター代

<書証番号略>によれば、83MMツアー参加者の手荷物運搬のためのポーター代は、六万七三五〇円と認められる。このうち、参加者のうちユーザーの占める割合に相当する金額である五万四四二四円(67,350円×80/99)が、ユーザーを前記各工場の見学に招待するために通常要する費用として、昭和五九年三月期の損金の額に算入されるべき金額というべきである。

(七) 雑費

<書証番号略>によれば、83MMツアーの雑費の合計額は、六三万三五七七円と認められる。このうち、支出目的の性質上、交際費に該当することが明らかな、ホテルサンハトヤのナイトクラブへの支払一三万二八七六円を除いた金額のうち、83MMツアーの旅行日程中工場見学及び移動に要した五日分に相当し、かつ、参加者のうちユーザーの占める割合に相当する金額である二五万二八七九円(500,701円×5/8×80/99)が、ユーザーを前記各工場の見学に招待するために通常要する費用として、昭和五九年三月期の損金の額に算入されるべき金額というべきである。

(八) その他の費用

<書証番号略>によれば、右に認定説示したところの他、宴会費、観光に伴う拝観料、ガイドサービス料金、添乗員費用が支出されているが、これらの費用は、その性質上、交際費に該当するものと認められる。

以上(一)ないし(八)に認定した説示したところによれば、83MMツアーの日本国内における費用のうち、昭和五九年三月期の損金の額に算入されるべき金額は、右(一)ないし(七)の認定金額三三五万七四四六円に八パーセントの割合による近畿日本ツーリスト株式会社の手数料を加算した三六二万六〇四二円と認められる。

3  よって、アメリカ合衆国のユーザー八〇名分の航空運賃である二二八七万九八八一円及び83MMツアーの日本国内における費用のうち三六二万六四〇二円の合計二六五〇万五九二三円が、ユーザーを前記各工場の見学に招待するために通常要する費用として、昭和五九年三月期の損金の額に算入されるべき金額というべきであり、その余の一七〇一万四六八一円は、租税特別措置法六二条の適用により、損金不算入の取扱を受ける交際費の額に該当するものというべきである。

別表1

課税の経緯

(単位円)

事業年度

昭和57年3月期

昭和58年3月期

昭和59年3月期

区分

確定申告

課税所得金額

13,974,962,804

2,827,125,250

3,994,213,988

納付すべき税額

5,749,961,000

1,063,465,800

1,544,938,400

更正

課税所得金額

14,018,646,888

2,869,292,274

4,111,146,128

納付すべき税額

5,768,308,300

1,081,175,900

1,594,050,200

過少申告加算税の額

254,000

885,500

1,541,500

重加算税の額

3,975,000

5,481,000

裁決

課税所得金額

14,017,874,288

2,847,908,276

4,095,703,262

納付すべき税額

5,767,984,100

1,072,194,600

1,587,564,100

過少申告加算税の額

254,000

436,000

1,217,000

重加算税の額

3,879,000

5,481,000

別表2

申告及び更正等の内容

(単位:円)

事業年度

昭和57年3月期

昭和59年3月期

項目

確定

申告

申告所得金額

1

13,974,962,804

3,994,213,988

差引所得に対する法人税額

2

5,749,961,000

1,544,938,400

更正

加算

販売促進費否認

3

30,796,400

0

交際費等損金不算入額

4

0

49,322,698

④の内訳

83MMツアー負担金

5

0

43,520,604

奈良パークホテル等に支払った接待費

6

0

3,098,549

83ウエスティックショウ協賛金のうち

パーティ費用

7

0

575,022

福利厚生費のうち親睦宴会費用

8

0

410,000

広告宣伝費のうちパーティ費用

9

0

1,376,783

販売手数料のうち謝礼金

10

0

200,000

雑費のうち役員懇親宴会費用

11

0

141,640

減価償却超過額否認

12

129,500

56,925,144

雑費否認

13

3,301,000

3,530,000

修繕費否認

14

8,684,584

0

加算金額計(3~14)

15

42,911,484

109,777,842

減算

減価償却超過額認容

16

0

5,794,508

未納事業税認容

17

0

2,493,960

減算金額計(16~17)

18

0

8,288,468

差引加算計(15-18)

19

42,911,484

101,489,374

更正後の所得金額(1+19)

20

14,017,874,288

4,095,703,262

差引所得に対する法人税額

21

5,767,984,100

1,587,564,100

賦課

決定

過少申告加算税の額

22

254,000

1,217,000

重加算税の額

24

3,879,000

5,481,000

別表3

昭和59年3月期課税標準等及び税額等の計算

昭和59年3月期更正

(裁決後の金額)

判決認容額

所得金額

4,095,703,262

4,069,197,339

法人税額

1,623,911,660

1,612,779,140

控除所得税額

36,347,461

36,347,461

差引所得に対する法人税額

1,587,564,100

1,576,431,600

重加算税額の計算

昭和59年3月期重加算税賦課決定

(裁決後の金額)

5,481,000

減少する本税額

11,132,500

減少する重加算税額

(②×30%)

3,339,000

判決認容額

(①~③)

2,142,000

八昭和五九年三月期更正及び重加算税賦課決定の適否

1  昭和五九年三月期更正の適否

以上に認定説示したところによれば、本件リベートのうち二六五〇万五九二三円は、昭和五九年三月期の損金の額に算入されるべきであって、本件リベートの全額が交際費に該当するとして、昭和五九年三月期の損金の額に算入しなかった昭和五九年三月期年更正は、原告の所得金額を、二六五〇万五九二三円過大に認定したものというほかはなく、所得金額四〇億六九一九万七三三九円を超える部分は、違法な処分として取消を免れない。

2  昭和五九年三月期重加算税の賦課決定の適否

以上に認定説示したところによれば、本件リベートのうち一七〇一万四六八一円については、83MMツアーに参加したアメリカ合衆国のユーザー八〇名及び同行した夫人一九名の日本観光に要した費用を負担する目的で支出されたものであるにもかかわらず、原告は、作成日付を遡らせた「販売促進リベートに関する覚書」を作成したり、マルカキカイ株式会社と相談して作成日付を遡らせた販売リベートの請求書の送付を受けて、販売リベートの支払であるかのごとく仮装してその支出をしたうえ、これを、昭和五九年三月期の損金の額に算入して、その所得金額を過少申告をしたことが明らかである。原告の右行為は、本件リベートのうち一七〇一万四六八一円につき、事実を隠ぺいし、又は仮装したものと認められ、右部分にかかる税額に対して課される過少申告加算税に代えて重加算税を課するべきである。したがって、昭和五九年三月期の法人税に係る重加算税の賦課決定は、右の限度で適正なものということができるが、右金額を超える金額に係る税額に対して課される過少申告加算税に代えて重加算税を課した部分は、過少申告加算税の賦課要件を欠くものというほかはないから、右重加算税賦課決定のうち、別紙3記載のとおり計算した税額二一四万二〇〇〇円を超える部分は、違法な処分として取消を免れない。

九結論

したがって、昭和五七年三月期更正及び重加算税の賦課決定の取消を求める主位的請求は理由がないから棄却し、昭和五八年三月期更正の取消を求める予備的請求に係る訴えは不適法として却下し、昭和五九年三月期更正の取消を求める請求は、所得金額四〇億六九一九万七三三九円を超える部分を、昭和五九年三月期の法人税に係る重加算税賦課決定の取消を求める請求は、税額二一四万二〇〇〇円を超える部分を取消すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官松尾政行 裁判官綿引万里子 裁判官和久田斉)

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